【薬局の疑問】骨粗鬆症の予防にカルシウム強化牛乳は良いですか?
ビスホスホネート製剤服用中の患者さんからご相談。
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明治のカルシウム強化牛乳ってあるでしょ。
あれってどうなのかしらね。
普段から牛乳を飲んでいるから、どうせ飲むならなら強化牛乳に変えてみようと思うんだけど。
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結論としては、積極的には勧めない。
まずカルシウム強化牛乳について検索。
牛乳・乳飲料 | 乳製品 | 商品情報 | 株式会社 明治より引用
通常の生乳100%牛乳と比べて、カルシウムはコップ1杯あたり100㎎くらい多いけど加えて鉄、ビタミンD、葉酸も添加しているようだ。
骨粗鬆症におけるカルシウム摂取の意義を確認。
骨粗鬆症のガイドライン(http://www.josteo.com/ja/guideline/doc/15_1.pdf)
を見ると
CQ:栄養全体におけるカルシウムの位置づけは
骨の健康にかかわる栄養素は多く、カルシウムのみが重要というわけではない。カルシウム摂取量を増やすことは骨粗鬆症の予防、治療に有効であるが、腸管からのカルシウム吸収量はある摂取量以上ではプラトーになる。また、腸管からのカルシウム摂取量はビタミンDの栄養状態によっても影響を受ける。(中略)したがって、カルシウム摂取量のみを考えるのではなく、栄養素全体の摂取、バランスを考えることが重要である。
CQ:治療のためにはカルシウムをどれくらい摂取すればよいか
治療のためのカルシウム単独の有効性レベルは低い(グレードC:行うよう勧めるだけの根拠が明確でない)。しかし、さまざまな骨粗鬆症治療薬の効果をより高めるための基礎的な栄養素としてカルシウム摂取は重要である。
カルシウム摂取と骨密度、骨折に関する最近のメタアナリシスでは、大腿骨近位部骨折の発生率とは関連はないとの報告もあるが、小児の骨密度に対してはわずかな上昇効果がみられ、カルシウム摂取量が少ない場合には骨折の発生が多いこと、、カルシウムとビタミンDを組み合わせることにより骨密度上昇効果、骨折予防があることなどが示されている。
これらの結果から骨粗鬆症の治療のためには1日700~800㎎のカルシウム摂取が勧められる(グレードB:行うよう勧められる)。ただし、同時に食事からのビタミンD摂取も考慮するべきである。また、ビタミンDは紫外線にあたることで皮膚でも合成される。1日15分程度の適度な日照暴露も必要である。
治療の補助というか基盤として栄養摂取を考慮する意義はありそう。
コップ1杯の牛乳ですべてまかなえるわけではないので「これさえ飲んどきゃおっけー」ではないけど、カルシウムも摂れてビタミンDも摂取できるのは、骨粗鬆症的に良さげーだ。
今回の患者さんはやせ型で食事の全体量が多くない可能性もあるから、無理なくこういうものを活用するのは、ありだと思う。
日照暴露についても説明したら「畑仕事で浴びすぎなくらい日光浴びてます」とのこと。
ビタミンDの1日あたりの摂取目安量は18歳以上で5.5μg、耐用上限量は100μg(厚生労働省 日本人の食事摂取基準より)。ガイドラインの推奨摂取量は10~20μg(グレードB:行うよう勧められる)。
主に魚やきのこに多く、魚は多いものでかわはぎ(可食部100gあたり)に43μg。
きのこはぶなしめじ(可食部100gあたり)で1.1μg、多いものであらげきくらげ(可食部100gあたり)25.3μg。
コップ1杯で1.3μgなら上限を超えてしまう心配もない。魚を毎日食べるなら不要かもしれないが、そうでなければこのプラスはありがたいかも。
次に、人工的なカルシウムをとることへの懸念。
天然の生乳に人工的にカルシウムを加えているので、その点は問題にならないだろうか。
同じくガイドラインから。
カルシウムサプリメントの健康リスク
近年、カルシウム摂取と心血管疾患の関係が報告されている。これはカルシウム薬やカルシウムサプリメントの使用により、心血管疾患のリスクが高まる可能性があるというものである。ただし、同じ量のカルシウムを食品から摂取した場合には、そのようなリスクの上昇はなく、栄養素としてのカルシウムの特徴とも考えられている。また、これらの報告は海外のものであり、日本とはカルシウム摂取水準、血清脂質状態、肥満状態などが異なると思われ、結果をそのまま我が国にあてはめることは問題も多いと思われる。
高用量のカルシウムを摂取することにより、急激に血清カルシウム濃度が上昇する可能性が考えられることから、現時点では、サプリメント、カルシウム薬として1回に500㎎以上を摂取しないように注意する必要があろう。また、ビタミンDとの併用時には高カルシウム血症にも注意が必要である。
ちょっと悩ましくなった。心血管疾患との関連についての論文はこちら。
せっかくなので、少し読んでみる。
patient level とtrial levelのメタ分析(さっそくわからない)。
選んだ論文はランダム化・二重盲検・プラセボ比較試験。試験期間1年以上。
patient level data について
Patient:11921名(平均年齢73歳、女性78%、白人97%)
Intervention:カルシウムサプリメント500㎎/日以上摂取
Comparison:摂取しない
Outcome:心筋梗塞・脳梗塞の初発までの時間に差があるか
ビタミンDの摂取量にプラセボと差をつけている試験は除外(ビタミンD摂取は致死率を減らすから)。
◆一次アウトカムは明確か?
⇒明確。それぞれの論文のプライマリーアウトカムはばらばら(骨密度だったり)
◆真のアウトカムか?
⇒真のアウトカムである。
◆評価者バイアス
⇒複数の評価者が独立して評価している(1回目MB、そのあとAGとMBが独して見直し)
◆出版バイアス
⇒ちょっとわからない...(ファンネルプロットはない)
◆元論文バイアス
⇒ランダム化比較試験のメタ分析である
◆異質性バイアス
⇒ブロボグラムより偏りなし。
例えば心筋梗塞の相対リスクについて、heterogeneity:I2=0%,P=0.96
◆結果
心筋梗塞発症について:ハザード比1.31, 95%信頼区間1.02 to 1.67, P=0.035
NNT(Tか?)(カルシウムにより5年で1人心筋梗塞起こすのに必要な人数)=69
カルシウム強化牛乳は、サプリメントほど加えているカルシウム量が多くないから問題にならないような気もするけれど...
報告を参考にすると、サプリメント等での積極的なカルシウム摂取を勧めるよりも、やはりまずは食事から摂取することを目標にするべき。
食事について聴取して十分にカルシウムやビタミンDをとれていたら、リスクがあるかもしれない人工的なものをわざわざ追加しなくてもいいかも。難しいけど。
食事からのコンスタントな摂取が難しければ、サプリメントと食品の中間のようなカルシウム強化牛乳は一つの選択肢としてありかも。もちろん高用量にならないよう注意喚起は必要。
私は牛乳キライなんだけどさ。美味しいのかなあ。